サンシャインステイトエスプレッソはフウガドールすみだのオフィシャルスポンサーを務めています。
先日、フウガドールすみだ現キャプテンであり、所属選手の中で最も所属歴の長い、諸江剣語選手が今季限りでの引退を発表しました。
SSEがスポンサーになったときにはすでに中核選手として活躍していた諸江剣語選手は、現在もまた、主力として活躍しています。そして長い選手歴の中で多くの年数をキャプテンとして過ごし、キャリアの後半はチームを牽引する立場としてもその存在が非常に重要なものとなっています。
そんな諸江剣語選手の引退発表に寄せて、すこしSSEから思い出などをお話させていただきたいと思います。
(以下、諸江剣語選手を「剣語」と表記させていただきます。また、その他の選手につきましても敬称を省略、または愛称での表記とさせていただきます)
SSEがスポンサーになった頃のフウガドールすみだ
2016年、SSEはフウガドールすみだのスポンサーになりました。その頃のフウガドールすみだには、どんなメンバーがいたんでしょうか。ある町田戦のラインナップを見てみましょう。
https://x.com/fuga_sumida/status/799549871015464961
2016年11月18日
【SuperSports XEBIO Fリーグ2016/2017 第20節vs町田】
◯本日のベンチ入りメンバー
GK 大黒、清家
FP 諸江、宮崎、稲葉、太見、田村、清水、西谷、岡山、渡井、ボラ
キャプテンマークは剣語が着けています。
GKには長く守護神として活躍した大黒に、今は下部組織の監督となった清家。FPにはフウガ6年目となる剣語、その1年前に加入した、こちらも長く主力になったミヤ(宮崎)とワタ(渡井)、フウガの前身であるボツワナ時代からの最後の生え抜きでありミスターフウガとも言われた太見、未来にスペインに移籍し日本代表を背負って立つことになる若きエース清水、日本フットサル界屈指のユーティリティプレーヤー西谷、日本代表に5回選出された稲葉、フウガ初の外国人プレイヤーであるボラもいました。
ボツワナからの生え抜き中の生え抜きである太見がそろそろ引退かという年で、実際に17年に引退しているのですが、フウガドールすみだが新しい時代へと切り替わっていく、そんな年でした。
ワタ剣語時代
翌年、太見が引退しまして、まだ中堅どころだったと思うんですが剣語が大黒柱になることに。本人がどう思ってたかはわかりませんが、チームの中で役割を果たすだけではなく、チームを牽引していく立場になったと誰もが認識したと思います。本人はたぶん、俺が引っ張っていくぜというような思いではなかったと思うんですけど。とても謙虚な男なので。
このとき、生え抜きのストライカーである太見が抜けた穴は大きすぎて、ひとつの時代が終わったなという感じはあったと思います。世代交代の最後のピースがひっくり返ったという感じ、監督は引き続き須賀さんなのでチームカラーというか体制というか、大枠では変わるものではなかったのですが、太見引退はさすがに大きなインパクトを残し、期待と不安が入り混じるような年になったのでした。もちろん新時代のフウガを背負うという意味で、剣語にはそれを期待するだけのものが当時すでにあったと思いますが、太見という存在に対して剣語がそっくり入れ替われるか、と言えばその当時の剣語にそれを100%期待するのは難しかった。しかしチームは否応なく新時代に突入してしまいました。剣語には荷が少し重い、誰か新時代のフウガを代表するような存在がいなければここからコケていってしまうのでは、と不安がありました。しかしフウガにはもう一人、剣語とは対照的な形でここからのフウガを代表していく男がいました。すでに技術の高さとセンスの良さで他クラブから一目も二目も置かれていた、ワタ(渡井博之)です。
ここから、フウガドールすみだGEN2とも言える、ワタ剣語時代が始まります。
剣語のプレースタイルは、一言で表せば、常に正しいプレーをする、です。まず大前提としてチームが正しいフットサルをできるようにする、そういう剣語の中のルールがあり、そのために目の前のひとつのプレーはどういう選択肢があって、どの手段が正しいか、それを常に厳しく選択するような姿をいつも見せていました。あえてファールをしなければならない時にも、最大限に相手に配慮したファールを犯すような、そしてその選択には他に方法がなかったのかと次の瞬間に悔やむような、そんな、自らを律するスタイルです。
もちろん勝利を渇望しており、一切手を抜かないで最後の1秒まで走り切る、熱量の高い選手でもあります。しかし同時に、常にクレバーで落ち着いて試合をコントロールしている、安心感を与える選手でもあります。フィクソでプレーすることが多かった剣語は、守備の最後の砦としてあらゆる攻撃に冷静に対処していく安定感の塊でした。
ワタは守りという点において、それとは全く違うアプローチでフウガを牽引しました。ある意味、ワタがいたからこそ、剣語はそんなプレースタイルを徹底できたのかもしれません。
ワタのプレースタイルは、こちらも一言で表せば、やるかやられるか、です。剣語同様にフィクソでプレーすることが多かったワタですが、だらだら歩いてるかと思いきやここという時に伝家の宝刀を抜き一瞬で仕留める、そんな一見あやういようなディフェンスで、駆け引きには常に勝つというようなスタイルでした。どうも一貫性が無く、力を抜くところは抜き、狙うところは圧倒的な技術で針の穴を通す、というようなムラもあるのに、絶体絶命と思われたピンチを何度も何度も救ってきました。
プレーは天才肌なところがあり、なにげないひとつのプレーが超絶テクニックで簡単に見えてるだけだったり、いわゆる舐めプというような圧倒的な力の差でのんびり捌くようなシーンも良く見ました。しかし、その内面はとても闘争心が強く、強い相手にこそ、逆境になればこそ、その力を遺憾なく発揮するような、熱い男でもありました。
剣語は、同じポジションにワタというまったくタイプの違うフィクソを得たことで、より剣語らしくプレーし、チームを牽引していくことができたのではないかと思っています。なお、ワタは剣語にとっては同じ高校の先輩でもあります。
「フウガがフィクソが良い」
これは、この第二世代のフウガによく言われたことです。ワタと剣語というフィクソの二枚看板がどれほど強力だったか。冷静にしっかり守って守備から攻撃を組み立てていく剣語と、なぜか一瞬でピンチがチャンスとばかりに盤面をひっくり返すワタ。タイプの違うフィクソふたりを攻略するのは、相手チームにとっては非常に難しいものだったでしょう。
守備の最後尾には守護神の章太郎がいて、ゴール前をワタ、剣語が守る。後がしっかりしているから攻撃的になれるし、ピンチをチャンスに変えてくれるから危機的状況がいつでもひっくり返る、守備がいかに大事かというのは言うまでもありませんし、このふたりがフィクソで代わる代わる出てくるのですから、アラ、ピヴォは安心感があったことでしょう。未来の日本代表ストライカーとなる、当時はデビューしたての和也の成長にもこのふたりが大きく関わったと言って良いと思います。
この二枚看板は2022年まで続きます。
そしてその間に、フウガのメンバーも入れかわっていきます。
大型ストライカーの和也がスペインへ移籍したり、外国人メンバーは、ボラが去りガリンシャが加入したり、名古屋から鬼塚がレンタルされたり、森村など日本代表選手を取ったりと、毎年メンバーが変わるなあと思いながら見ていましたが、そんなチーム事情の中でフウガがフウガらしくあるために最も重要なのが、誰がチームを引っ張るかでした。
剣語は入団当時に髪を染めていて、それはフウガとしては伝統的にNGであるというのはいわゆるアンリトゥンドルールなのですが、周りを見てヤバいと思ったのかすぐ真っ黒にしたというエピソードがあります。フウガに溶け込まなきゃ、フウガの仲間にならなきゃ、フウガでこれからやっていくんだから、という気持ちがすぐ行動に出たという感じです。すごく真面目なんですね。そんな剣語だから、入団以降はフウガイズムの、絶対に外しちゃいけない部分を固く持ち続けていて、そしてそのフウガの精神的な芯になるような部分を自ら体現していくことで、どんなに周りのメンバーが入れ替わっても、チームとしての方向性を間違うことなくメンバーが一丸となって同じ向きで走っていける、そんな立ち位置にしっかりと君臨し続けてこれたんです。
なお、余談ですがフウガイズムの別の一面である「真剣にふざける」という伝統は、剣語以外のメンバーが担ってくれていましたね。そこは剣語には難しかったのかもしれませんし、ほかに真剣にふざけるメンバーがいることで剣語は自分が最も必要とされるポジションで安心してチームを牽引していけたのかもしれません。
奇しくもふたり揃ってガラスの膝と言われた、ベテランにさしかかってきたワタ剣語時代の終盤には、テーピングを多く巻く姿も見られるようになり、ワタにしろ剣語にしろ、体を張って相手の攻撃を止めていく姿に心配がつのるようになってきました。それでも剣語は黙々と愚直に正しいプレーを選択しタイムアップまで実行していく、ワタは闘志を持ってセンスと技術で驚くようなプレーを見せる、とまだまだやれるような気がしていたものですが、2022年にワタがひと足先に引退します。
すでに第二世代黄金期とも言える時代を支えた、ミヤ、オカ、章太郎などが離脱、引退しており、和也もスペインへ行き、誠也は北九州へ行き、若手の台頭もあり、古株として残るのは剣語だけになってしまった、そんな感じになりました。
剣語奮闘
2021年を限りに須賀監督が勇退し、フウガは再びの過渡期に突入していました。
剣語はもうチームでは長老クラスになり、ベテランもベテラン、大ベテランであり、ファンは毎年のオフに剣語の引退を心配するようになってきました。
剣語も引退をなんども、いや毎年なのかな、考えていたようで、本人が「もう要らないよ、パフォーマンスが足りないよ、と言われたら僕はすぐ引退します」と、悪い膝と付き合いながら年齢に似合わない活躍をしている中で、毎年危機感を持って現役を1年ずつ伸ばしていったのです。
超長期政権であった須賀監督から、荻窪監督、北隅監督、そして現岡山監督にと短いスパンで体制が変わる中、剣語に求められるプレーもその都度変わったのだろうと思います。戦術も変わりますし、メンバーも変われば、やることが変わり、それに対応していくことも大変だったろうと思います。チームの成績も低迷していて、ベテランとしてなんとかしなきゃという責任感ももちろんあったでしょうし、勝ち星が少ない中で単純に目の前の一勝をなんとしても取りたいということもあったでしょう。だんだんと年齢を重ねたことでの肉体的なパフォーマンスの低下も本人は感じていたのかもしれません。
剣語がピッチ上で見せる表情から、厳しさ隠せなくなってきたのはいつ頃からだったでしょうか。
この数年のチーム状況も、そして自身のパフォーマンスにも、満足ということはなかったと思います。それでも最後まで一歩たりとも手を抜かず気を抜かず走り切る、そんなプレースタイルは昔のままです。全日本選手権の23年の優勝は、加入2年前のFUGA MEGURO時代の優勝を味わってない剣語には初のタイトルでした。、長くフウガを支えてきた剣語には、やっと手にした、とてつもない勲章になったと思います。しかしレギュラーシーズンではチームの勝ち星に恵まれず、特にホームゲームでの敗戦後、スタンドに挨拶する剣語の顔が暗いことが多く、思い通りにいかないんだろうなあと思って見ていました。
それでも剣語はいつでも全力で走り、体を張ってブロックし、最後まで気を抜かずプレーしていました。追いかける展開の2ピリオド残り数分というところで、パワープレーになると剣語が出ていきます。体力的に厳しいところ攻撃に参加させるというのは、やはりベテランへの監督の期待が大きいのですね。
もともとドリブルが好きで、得意で、アラで走り回っていた剣語ですが、フィクソに回るようになってからはカットインする姿を見る機会は減りましたが、それでも時おり見せるカットインの鋭さや、ミドルレンジからの強烈なシュートは、まだまだ現役どころか今でも第一線に立つのが当たり前だと背中で言っているようなパフォーマンスの高さです。
「筋トレしたら足が遅くなるからやらない」と昔は言っていたのですが、筋トレし始めてから足が遅くならないことに気が付いて、それ以降めちゃめちゃ筋トレ大事だと思うようになったそうです。屈強なピヴォと当たって当たり負けしないムキムキのお尻は日々の鍛錬の成果なんです。どっしりと構えてピヴォを封じるところから、ボール奪取からの速攻もこなす推進力まで、このお尻があってこそですね。
そして、いよいよ今年、剣語が「引退します」と言いました。
僕たちファンが、シュートブロックする剣語を見れるのは、ポジション争いで体を張る剣語を見れるのは、ドリブルでボールを持ちあがる、ミドルからシュートを放つ、パワープレーする剣語を見れるのは、とうとう今季限りとなってしまいました。
剣語が引退したらフウガはGEN3となり、また新生フウガとなるのでしょう。太見引退までの時代、ワタとともに剣語が支えた時代を経て、次はどんなフウガになるんでしょうか。
途中で加入してきたくせにミスターフウガみたいな顔をして、どんなに苦しくてもラスト1秒まで全力を振り絞り、ゴール前では身を投げ出して体を張り、冷静に勝ち筋を探し、正しいプレーを心がけた剣語。そのDNAを継ぐのが誰になるのかわかりませんが、剣語が蒔いた種が芽を出し、育てた選手が活躍して、剣語の想いを引き継いで来季には新しい時代のフウガになってもらいたいと思います。
それまであとわずか、最後まで剣語を応援しましょう。

